130R 鈴鹿の風になる?

 私は根っからのスピード狂(だった)。自転車でもスキーでも、兎に角飛ばしたかったが実力が伴わず思うように速度が出ない。これはもう自力では無く、何等かの動力に頼らざるを得ないと考えていた。

 そんなある日、会社の先輩からバイクでの北海道ツーリング旅行を誘われたが、彼は限定解除、モトクロスからレーサーレプリカ迄数台を所有。休みの度、奥多摩周遊道路へ行き、その筋の他人と腕を競っていると言う。おまけに自分が転倒したカーブを自身の名前から「良ちゃんコーナー」と呼び喜んでいる。

 それに引き換え私は普通自動車免許はあるが、原付しか乗れない。更にその原付バイクさえ所持していなかった。負けず嫌いな私は一念発起、中型バイク免許を取る為、昼休み会社を抜け出し教習所に通った。

 しかもよせばいいのに会う人毎に「鈴鹿の風になる」と豪語し、購入予定のカワサキエリミネーターに合わせ黒のフルフェースや手袋等を揃え、退路を断った心算だった。

 しかし母親の肝癌発症が判明、入退院を繰り返すようになりバイクどころの話で無くなって止むを得ず教習を断念。その後関係会社の若い衆から「風になりましたか」と聞かれた私は「うーん、そよ風位かな」と答えるしか無かった。    

 そしてまた、あの暑い夏が今年も鈴鹿にやって来る。 

 

   http://www.suzukacircuit.jp/8tai/    

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