ミスターバーテンダーの肖像

 一口に酒場と言っても多種多様な店があるが、私にとって「バー」とはどこか大人びて異邦の香り漂う洒落た感じのする言葉だ。

 カウンターに幾らかを積んでおくと、バーテンダーがそこから一杯分ずつ差っ引いてゆき、彼がカウンターを二度叩くとそれは店からの奢りだと言う。

 私は残念ながら上述のような経験は無いが、縁あって銀座のある店で本当のミスターバーテンダーの知遇を得ることが出来た。

  カウンター席に座って話を聞くと、戦後、東京會舘に勤め進駐軍相手に酒を出していたことに始まるという。私はそのような昔ばなしを聞くのが大好きで、その後何度もその店を訪ねることとなった。

 いつも笑顔を絶やさず温厚な口調で淡々としていたが、弟子らしき若い女性が作ったカクテルを一口味見し、首を横に振って全部捨てさせているのを見た事もある。

 ある日、調査の為EU4ヶ国を廻ったメンバーで会食があり、渡航中私は散々お世話になったので、二次会としてこの店に案内した。

 ここはミスターバーテンダーがいるので何でもお好みのカクテルが飲めると言うと、一人が調査の合間に立ち寄ったニースの海岸みたいなのがいいと言うので、私が勝手に「コートダジュール」とオーダーしたところ、見事に碧いカクテルが出てきた。

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  その後、しばらく行かなかったところ、2010年2月のある朝、勤務先でネットのニュースをチェック中、以下の記事に目が釘付けとなった。

山本浩司氏死去(日本バーテンダー協会顧問)(時事通信

 山本 浩司氏(やまもと・ひろし=日本バーテンダー協会顧問)22日午前3時23分、胸部大動脈りゅう破裂のため千葉県浦安市の病院で死去、83歳。東京都出身。葬儀は25日午前11時から千葉県市川市富浜2の1の23のライフケア妙典で。喪主は妻節子(せつこ)さん。
 戦後のバー文化の発展に貢献、2000年に「ミスターバーテンダー」を受賞した。