週末のホテルのバーは人種のるつぼと化していた。しかし、ここは紛れもなく日本の東京、その証拠に眼下に浜離宮の輪郭がぼんやり見える。
時刻はまだ午後八時半、J.W. ブルーのオン・ザ・ロックを飲みながら、三人編成の生バンドが演奏する「ホテルカリフォルニア」を聞いている。
この選曲がホテルとして妥当かどうかは疑問が残る。少なくとも歌詞を知っていればそう思うはずだ。
しかし、そんな事はどうでもよい。もう些細な事柄に拘る歳ではない。まるで上げ足取りのような議論に身を投じるつもりも毛頭ない。自分の言葉に命を賭ける情熱はとうに失くした。
オーダーを忘れたり間違えたり、一流ホテルのバーのウエイターとは思えない対応も今日は許す。
席につく前、通路で肩が触れた銀色の髪の少女に咄嗟に ”I 'm sorry" ではなく”Excuse me" と言えてよかった。
望むことは唯一つ、この旨い酒にもう暫く酔い痴れていたいだけだ。