キャンディーズ賛歌

 1978年4月4日文京区後楽園球場に於いて日本屈指の女性コーラスグループが人気絶頂の最中、その音楽活動に終止符を打った。

 彼女達の名はキャンディーズ。歌が好きで、フォーリーブスの後ろで踊りたいという夢を抱き、大手芸能プロダクション所属の集団「スクールメイツ」に入った少女三人によって1972年に結成されたグループである。

  解散の理由はありがちなメンバー同士の仲違いや方向性の違い等では無く、当時流行語にもなった「普通の女の子に戻りたい」。突然のその宣言は当初の驚きからやがて一変し、半年後の解散に向け更なる人気沸騰のムーブメントを巻き起こした。

  ところで彼女達は本業の歌だけではなく、ドリフターズ伊東四朗小松政夫といった芸達者なコメディアンとも充分に渡り合えるマルチタレントとして人気を博していた。しかし、ここではそう言った芸能活動には触れず、多分、あまり評価されてないか全く知られていないであろう三人のハーモニーについて私見を述べてみたい。

  さて、一般的に女性アイドル歌手達はその可憐な容姿を最大の武器としている。勿論キャンディーズも見栄えの勝負は可能であった。そして当時の常識で考えれば、無理をしてハモらずとも三人揃ってユニゾンで歌えばそれで済んでいた筈である。その方が音程は安定するし声量も大きくなる。

 ところが彼女達はアイドルではありながら敢てコーラスグループとしての道を歩む事となった。その訳を筆者の記憶を辿れば、当時のラジオ番組でのインタビューに行き着く。

『ある日新曲のレコーディングに行くと、用意されているカラオケにコーラスが入っていない事に気づき、その訳を尋ねたところ「あんた達、コーラスグループだろう?」と言われ、漸く自分達の置かれた立場を理解した』

 それ以来、彼女達のレコードのバックコーラスは全て自分達がする事を自覚したと言う。

 ここからがいよいよ本題である。キャンディーズのハーモニーは主旋律に対し、三度上と三度下、別の言い方をすれば三度五度のハーモニー。もっと分かり易く言えば、主旋律を「ミ=E」とすると上が「ソ=G」、下が「ド=C」。お馴染みドミソの和音だ。これは非常に基本に忠実ではあるが、それだけに揺るぎの無いオーソドックスな3パート・ハーモニーと言える。

 そしてこれを田中好子が主旋律、伊藤蘭が上、藤村美樹が下を受け持つというのが通常のセットである。「年下の男の子」以降、メインボーカルが多い伊藤が何とハモりでは上に行く。これは田中の甲高い地声より彼女のファルセット方がソフトで心地良いと判断された為と考えられる。ここは非常に重要なポイントだ。

 しかし特筆すべきは、このハーモニーの要である藤村の存在である。何と言っても彼女は不動の三度下、場合によっては三度上、要はどのパートでも難なくこなす根っからの歌い手で、一説には絶対音感が備わっており、またキャンディーズの音楽的リーダーを自負していたと言うが、それを裏打ちするだけの広い音域と豊かな声量の持ち主で、しかも彼女自身はキャンディーズへの楽曲提供者でもあるのだ。

 このようにして出来上がったハーモニーは単なる三声のコーラスでは無く、一聴するだけでキャンディーズのそれと判る程個性的で、彼のシュープリームスやスリーディグリーズに匹敵し、我が国のスリーグレイセス、マニアックなところではチャープスにも全く引けを取らない。と言っても過言では無いと思う。

 ところでヒットを狙うシングルカットされた曲は、人気ナンバー1の伊藤蘭がメインだが、一方アルバム(LP)では何故か藤村美樹メインの曲が多くなる。これは上述の通り藤村美樹の音楽性の高さを物語っており、彼女の若干ハスキーな声と3パートハーモニーは、音楽通を自称する者にとっては堪らない魅力なのである。参考としてこの曲を紹介したい。 

 

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 如何だっただろうか。キャンディーズはともすれば彼女達より後にデビューしたピンクレディーと比較され、様々な記録で後塵を拝する事が多いのは事実である。しかし、その自立した音楽性に於いては全く追従を許すものでは無い。YouTubeには他にも数多くUPされているので是非聴いてみて欲しい。

 

 2011年メンバーの一人、田中好子乳がんに因る長い闘病生活の末他界。キャンディーズ再結成の夢は完全に断たれた。そして2019年5月末、伊藤蘭が41年振りに新しいアルバムを発表しライブも行うという。どのような作品なのか、全キャン連ならずとも、筆者は興味深々なのである。

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