アナログ音源完全デジタル化大作戦

 なにやら大層大袈裟なタイトルだが竜頭蛇尾はいつもの事なので、その心算で読んで頂ければ幸甚である。

 さて、今回はテープレコーダーにまつわる話。私が初めて手にしたその機械は親が英語の勉強の為と言って買ってくれた5号のオープンリールを使うモノラルの製品、小学生の時だった。その当時カセットテープは既に海の向こうでは開発されていたらしいが民生用の機器は一切無く、従ってその存在すら知り得なかったし、ましてやデジタルレコーダーなどSF小説にさえも登場する事は無かった。

 その後私は成長するにつれ、親の期待とは裏腹に次第に音楽に引き込まれ、最初はラジオ、次はレコード、そしてギター、ピアノ等キーボード類、果てはベースやドラムスと深みにはまって行った。

 そうしているうちに、録音機材があれば自分のミュージック・ライフがより発展性のあるものになると気づき、高校生になって初めて夏休みにアルバイトをして、念願のカセットデッキを入手する事が出来た。

 最初の頃は専ら友人から借りて来たレコードを録音する為だけに使用していたものの、もう一台のデッキとマイクロフォンを融通して来てオーバーダビングを繰り返し、S&GやCSN&Yのコピーを独りでアンサンブルして楽しむ事を覚え、更に同級生と組んでオリジナル曲を制作。ただ単に既製のフォークソングを歌っている連中よりは、何となくクリエイティブな事をやっているのではないかと自己満足に浸っていた。

 勿論、楽曲が優れ、歌も演奏も秀でていればシンプルにギターかピアノによる弾き語りで充分な筈だが、不幸な事にそのような技量は無く、いつしか音楽の根幹を外れ、目的よりは手段を重視するというミュージシャンにあるまじき方向へ向かってしまった事は否めない。

 しかし病は高じて、大学に入るとカセットテープの物理的最大弱点であるヒスノイズ解消とマルチトラックへの憧憬から、4トラック/4チャンネル且つ10号リールが38cm/secでグルグル回わるオープンリール・デッキを入手、更に社会人になって4チャンネルでは飽き足らず、カセットテープを使用していながらも音質向上の為、通常の倍速である9.5cm/secに回転数を上げた8トラック/8チャンネル・デッキ、そして遂にはデジタル・マルチ・トラック・レコーダーへと長い変遷の旅路を辿って今日に至った。

 だが現在、完動する機器は8チャンネル・デッキとデジタル・レコーダーのみになってしまい、かって惜しみなく時間を費やして多重録音したり、ライブで録ったショーもない駄作の数々を聴く事が出来ない。

 しかも、カセットテープにトラックダウンしたそれらのガラクタを再生しようにも、今度は所謂普通のカセットデッキすらまともに動かなくなってしまった。

 歳を取ると妙に回顧的になるのかも知れない。しかし過去の栄光とまでは言えないにせよ、古いフォトアルバムを開くように、無知で無邪気で荒削りだったあの頃を、偶には振り返ってみるのも悪くはないと思う。

 そして私は決断した、『新しいカセットデッキを購入し、デジタル化するのだ』。

 しかし、現在新製品として販売されているカセットデッキは非常に限られており、かと言ってグリコのおまけのようなちゃちな再生機や、高機能であっても中古品を買うリスクは避けたい。

 暫くネットを彷徨った結果、漸く見つけた老舗TEACのデッキを通販で購入、今まさに、かれこれ約半世紀間に及ぶ膨大なアナログ音源ライブラリーを、一つずつデジタル化する作業に着手したところである。

 尚、10号リールのテープも数十本、段ボール箱に保管してあるが、時間的にも経済的にもとてもそこまでは手が回らない。全くもって残念。

 

(写真は8チャンネル・デッキ)

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