ブレイブ・ブロッサムズ

 いよいよこの9月20日から、日本でラグビーワールドカップが始まる。未だにあの長球ボールに触れた事さえ無いにも拘らず、私は何故か昔からこのスポーツに憧れを抱き、解り辛いと言われるルールもひと通り理解している。そして白熱したゲームが展開された後、試合終了のホイッスルと共に審判が告げる「ノーサイド」という言葉が何よりも好きである。

 かってポール・サイモンは、名曲「明日に架ける橋」の中で「I'm on your side」と歌ったが、ゲームセットを以って敵でも味方でも、そのどちら側でも無いという意味のこの言い方には感動すら覚える。

 ラグビーに興味を持ち始めた頃、私は音楽に熱中しており、自分でも曲を作ったりしていたが、もし将来レコードを出す機会があれば、アルバムタイトルは必ず、サイドAでもサイドBでもないこの「ノーサイド」という言葉にしょうと密かに決めていた。ところが何処で漏れたのか、それから間もなく松任ユーミンという呉服屋の娘が、その題名を付けた曲を先に発表してしまい、私の目論見はあえなく潰えてしまった。

 それはさておき、最近はラグビーの試合は専らテレビで見る事が多くなったが、以前は仕事上の得意先から応援を頼まれたりして、勿論嫌いではないのでその都度、秩父宮ラグビー場に足を運んでいた。

 寒い冬の日は依頼主である企業の受付に名刺を差し出すと、ワンカップ大関とおつまみセットをくれる。それを持って観客まばらなスタンドに座り、チビチビと暖を取りながらの観戦。

 しかしながら私が立場上応援するチームは、一応全国レベルではあったが、あまり強くないので大概はコテンパンに負けてしまう。それもかなりの大差である。

 よく「ラグビーにマグレは無い」と言われる。私も自分が見てきた経験から、確かにラグビーというものには、偶然とか番狂わせ等というものは殆ど存在せず、必ず強いチームが勝つものだという固定観念みたいなもの抱くようになっていた。

 実際のところワールドカップに於いても、日本代表チームは善戦こそするものの、世界の強豪の前に残念ながら長い間敗れ去って来た。

 ところがである。2015年9月19日、我々はラグビー発祥の地イングランドに於いて、日本が優勝候補の南アフリカに、34対32で勝利する姿を目の当たりにした。

 その試合の終了間際のスコアは日本29、南ア32。そこで日本はペナルティーキックのチャンスを得た。名手、五郎丸選手がこれを決めれば同点引き分けに持ち込む事が出来る。しかし主将リーチ・マイケルは何と敢てスクラムの指示を出す。それはペナルティーゴールの3点ではなくトライによる5点、即ちリスクを取って「勝負」に拘ったのだ。

 果たしてその結果、日本は左サイドを突破し、見事なトライを決め、歴史的勝利を収めた。サッカーの「ドーハの悲劇」は有名だが、ラグビーではこの快挙を、やはり開催地の名を取り「ブライトンの奇跡」と呼んでいる。

 現在、日本代表の世界ランキングは第10位。もはや弱小チームなどではない。そして今回のワールドカップ1次リーグでの対戦相手の状況は、ロシア=20位、アイルランド=1位、サモア=16位、スコットランド=7位。

 決してどれも楽な試合では無いが、勝機は充分にあると思われる。これまでラグビーには全く関心が無かった方、また既に観戦チケットを入手した方も、折角のワールドカップなので、大いに楽しみ皆で応援しようではないか。

 さて今回のタイトル「ブレイブ・ブロッサムズ」は日本代表のニックネームである。これは強豪ニュージーランドナショナルチームを「オールブラックス」 と呼ぶのと同様だ。

 そして私は、今年新たに仕入れたブレイブ・ブロッサムズのユニフォームのレプリカを着て、しきたり通りにビールをたらふく飲みながら、家のテレビでゆっくりと、熱い試合を観戦しようと考えているところである。

 「If there is no blood on the line, it is no rugby league」

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