ラグビーに乾杯

 ラグビーワールドカップ2019が始まった。開会式に続いて行われた日本対ロシアの試合、結果は我等がブレイブブロッサムズが30ー10で勝利を収めた。後半に見せた圧倒的な底力は、やはり日頃の厳しいトレーニングの賜物なのだろう。これで日本は勝ち点5を獲得、目標であるベスト8へ一歩近づいたと言えるのではなかろうか。

 今回のW杯は日本のみならずアジアで初めて開催された大会である。そのせいもあってか、各マスコミはかって無い程、挙ってラグビーに関する様々な情報を紹介しており、その中で特に私の目に留まった事は、ラグビーとビールの切っても切れない関係だ。

 既にご存知の方も多いと思う、NHKでもこのように伝えている。

ラグビーW杯開幕 消費増加見越しビール大幅増産 | NHKニュース https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190920/k10012090641000.html

 これは最近知った事だが、例えば同一スタジアムで行われたラグビーとサッカーの試合を比較すると、前者のビール消費量は後者の何と6倍というデータがあるという。

 従ってラグビー強豪国では自ずとビールがよく飲まれ、世界ランキング1位のアイルランドに至っては、国民一人当たりのビール年間消費量は118リットル。54リットルの日本の実に2倍以上を飲んでいる事となる。尚、世界で一番ビールを飲む国はチェコの150リットルで、アイルランドは2位である。

 そのようなアイルランドの人達の試合当日の行動パターンは、三々五々パブに集まり、先ずビールを飲みながらその日の展開や問題点について語り合う。そして当然ビール片手に観戦し、更に試合終了後、またパブに行きビールで喉を潤しながら対戦を振り返るのだそうだ。

 ところで、かく言う私は勿論アイルランド人ではないが、長きにわたり所謂ビール党であった。敢て「あった」と過去形で言うのは、ここ数年ワインがマイブームになり、ビールは以前程飲まなくなったからで、今でも日本酒やウイスキーに比べればその比率は遥かに高い。

 かって全盛期の頃には一般的な大ジョッキーで軽く7、8杯はいけたので、所謂「生ビール飲み放題2000円」等と謳った店では、間違いなく元は取ってきたと思う。

 だが若い頃は、そのようにビールばかりを飲むという行為は中々成立しなかった。と言うのも、一緒に飲んでいた諸先輩達の脳裏には「ビールはコストパフォーマンスが低い」という観念が焼き付いており、せいぜい最初のコップ1杯程度で済ませ、後は熱燗の世界だったからである。

 確かにアルコール度数平均14%の日本酒に比べ、ビールは5%程度。如何にして安上がりに酔うかが目的であれば、選択肢から外れる事は止むを得ない。私も日本酒を飲めない訳ではないが、しかし、もう少しビールが飲みたいという思いをずっと抱いてきた。

 そんな長い冬の時代がようやく去り、やがて私も歳を重ねて、それなりの立場となって以降は、もうだれも止める者はおらず、思う存分ビール漬けの日々を送った。それは非常に狭い世界ではあったが、ある程度その社会では認知され、何処で誰と飲もうが、気が付けばそこには常にビールが置かれるようになっていた。

  ビールを多飲する事による問題点も確かにある。一番はどうしても尿意が頻繫に起きるので、店のトイレが混雑している時など、かなり辛い思いをする事になる。また飲んだ挙句タクシーで帰宅中、一般道ならば最寄りのコンビニに飛び込めば済むが、高速に乗って渋滞に巻き込まれると地獄である。しかし、そのようなデメリットがあっても、美味しいビールを止める気はさらさら起きなかった。

 ビールにまつわる思い出も数々ある。今でもよく覚えているのは、パブ発祥の地と言われるイギリスでの出来事である。

 パブへ行った際、私は知ったかぶりをして所謂ハーフ&ハーフをオーダーしたところ、英語が上手く通じなかったのか、カウンター内の親爺は怪訝な顔をして、ピルスナーとスタウトを特大のジョッキーに別々に注いで私の前に置いた。

 私は一瞬驚いたが直ぐに気を取り直し、もう一つジョッキーを貸してくれと言って自分で混ぜ始めた。すると漸く私の意図を理解したのか、彼はピッチャーのような容器を出してきてハーフ&ハーフは無事完成した。

 そしてそれを傍で見ていた赤鬼のような大男達は、笑って私の肩に手を伸ばし、見知らぬ者同士、そこで乾杯が始まったのだ。

 さて、もしかしたら賢明な読者諸氏は、それだけビールを飲んできたのであれば、さぞかし尿酸値が高く、痛風持ちであるに違いないとお考えかも知れない。ところが、幸いな事に未だに基準値以下の2.6より上がったためしがない。恐らく神様がそういう体質を与えたもうたのだろう。 

 日本で開催の今回のW杯、時差無しで世界トップクラスの試合を、居ながらにして見られるとは、何と幸せな事であろうか。

 そして来る9月28日、日本はビール大国アイルランドと一戦を交える。応援するしか能が無い私は、せめてビールを飲む量で強敵を圧倒し、勝利を目指す所存である。

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