青春浪漫 告別演奏會顛末記 6

f:id:kaze_no_katami:20200612084934j:plain

3.「私は怒っています」ナッパは電話の向こうで泣いた(1)

 

 メガネユキコは同い年ながら、分別のある言動や日頃の立ち振る舞い等から何処かしら年上のように見え、クマ達もごく普通に会話が出来る数少ない女子の同級生で、2年4組の学級委員でもあった。

 彼女はまた所謂姐御肌らしく、時折女の子数人と申し合わせては、駒沢にある馴染みの「あんみつ屋」へ雑談をしに行く事から、非公式なメモ等では自ら「安 美津子」というペンネームを使用していた。

 そしてセンヌキは何故か誰にも相談する事なく秘密裏に、この「お姐様」にフェアウェル・コンサート出演を依頼して、あっさり断られていた。しかし悪事は直ぐに露見するもので、この事実が瞬く間に判明したのは、メガネユキコ本人がクマに電話をして来たからだった。

 彼女はそこそこ成績も良くズケズケ物も言ったが、傲慢なところは殆ど無く誰とでも気さくに話す。その日は開口一番「ねえクマさん。センヌキ君って私の事バカにしてるのかなぁ」

 クマは一瞬当惑しながらも取敢えず答えた。「女史の身に一体何が起きたと言うの」いつの頃からかクマは彼女に敬意を表する意味で「女史」と呼ぶようになっている。

 「私にフェアウェル・コンサートに出てくれと言ってきたの」

 「そんな話は聞いてないけど」そう言いながらクマは灰色の脳細胞の記憶の領域を辿り、程なくシナプスが繋がった。

 それは未だ彼等が1年生だった頃、センヌキは同級生のペチャ松という一般的客観性に照らし合わせて見ればれカワイイ容姿でバレーボール部員、尚且つマカロニ・ウエスタンのトップスター、ジュリアーノ・ジェンマの大ファンの子に、五回アタックして五回ともブロックされた事があった。

 それが2年生の夏、今度は何を思ったかメガネユキコに惚れてしまい、夏休み、健全にも白昼、自分の思いを告白すべく彼女を駒沢公園まで呼び出したのだが、不運な事に偶然チャリンコで遊びに来たクマ達とバッタリ出くわしてしまった。

 「何やってるの。」とのクマの問いに、センヌキが「いや、ちょっと。」と少し顔をしかめながら答えに窮しているところに今度はメガネユキコが現れ、男女の機微に疎いクマが結果的に邪魔する形となり、センヌキは何も言い出せず、皆で秋の文化祭の話などしてそのまま散会となった。

 その日夕方、何の為に呼び出されたのか不信に思ったメガネユキコがセンヌキに電話をすると、彼はすっかり挫けていて適当な言葉でごまかしてしまった。

 後になってからその話を聞いたクマは、「それならそうと言ってくれれば良かったのに。」と笑みを浮かべて人の不幸に同情した・・・その記憶が蘇った。

 『なるほど』とクマは考えた。センヌキは自分がナッパに対しそうであったように、コンサートを利用して巻き返しを計ったのだ。

 クマはメガネユキコに言った。「バカにはしてないと思うけど、きっと女史にコンサートに来て欲しかったんじゃないかな。」

 「コンサートにはムーも出るから観に行くけど、歌うのは勘弁して欲しいなあ。」

 「了解、センヌキにはそう言っておくよ。」

 哀れセンヌキの公算はまたしてもこうして崩れ去って行った。

 そして今度はクマ自身、「DANDY6号 」の『S教員との対話』という記事がもとで、笑ってばかりはいられなくなるのだった。<続> 

 

 古いカセットテープから思わぬものを発掘してしまった。当時の現役JKの生の会話である。(尚、期待する程の物ではないので、悪しからず)


いつか別れが/風のかたみの日記

 

      f:id:kaze_no_katami:20200519162825j:plain