青春浪漫 告別演奏會顛末記 11

f:id:kaze_no_katami:20200612084934j:plain

5.「青山純がいるのに」誰もがそう思った

 

 実質二ヵ月位しかない三学期は瞬く間に過ぎた。その間クマは、オリジナル全8曲からなる一人多重録音のテープ第二弾を、極一部の学友諸君に対し緊急発表し、アグリーも新曲を二つ作った。

 アグリーは20世紀最大のメロディーメーカーを目指すと豪語するだけあって、結構キャッチーなメロディーラインを得意としており、それはクマも認めざるを得ないところで、二人の関係は辛うじて「音楽」を通じて繋がっていた、と言っても過言ではないだろう。

 一方、アグリーはクマのアレンジセンスや演奏技術に一目置いていた。かって高校1年当初、クマが学校に愛用のギター(S.ヤイリ YD-304)を持って行き、休み時間ケースから取り出すと、すかさず5~6名の男子が集まった。その中でクマがおもむろにP.サイモンの「休戦記念日」というDチューニング(DADF#AD)を使った曲を弾き始めると、一人「サイモン買ったの?」と聞く男がいて、「うん」と答えた。それがクマとアグリーの最初の会話だった。

 アグリーの音楽のルーツはビートルズに始まり、ボブ・ディランサイモン&ガーファンクルビーチボーイズサンタナカーペンターズ、ブレッド、シールズ&クロフツetc.と幅広く、レコードには惜しみなく小遣いをつぎ込んでいた。

 クマもまた一応は何でも聴いていたが、サイモン&ガーファンクルにのめり込んだ後、C,S,N&Yにハマり、広く浅くよりは狭く深い、楽器、演奏、ハーモニーといった技術系に興味があった。

 二人に共通していたのは、洋楽好きで当時流行っていた日本のフォークソングなどは、加藤和彦や駆け出しのオフコース等、極一部を除いて殆ど聞かない、という点であったが、それに引き換えセンヌキにとっては吉田拓郎が神様で、そこがクマやアグリーから「アンタはボブ・ディランを聴いた事が無いのか?」とバカにされる要因の一つでもあった。

 二月頃になると軟弱集団「深沢うたたね団」自体、いつの間にかバンドみたいになっており、I,S&Nはアコースティック主体、「うたたね団」はエレキを使ったロック色の強いもの、といった一応の色分けがなされていた。

 そもそも何故「深沢うたたね団」なのか。答えは至極簡単で、当時高田渡山本コータロー等が吉祥寺付近で結成した音楽集団「武蔵野タンポポ団」を真似したに過ぎず、「うたたね」=「NAP」=「ナッパ」はクマが偶然発見した後付けの理由であった。

 因みにお馴染み機関誌 「DANDY」のインチキ音楽情報欄には次のような記事が掲載されている。

 1月15日付「転がる石ころ誌」が伝えたところによると、ロックンロールを主体とした新グループが成された。名前は「深沢うたたね団」

 メンバーはギター(クマ、アグリー、カメ)

 ベース(センヌキ)パーカッション(トシキ)

 リードギター(アガタ)ボーカル(ダンディー

 全共闘のアガタはクリームやツェッペリンが好きだと公言していたが、クマは一度「天国への階段」という曲をコピーしてくれと頼まれ、TAB譜の無い時代、生ギターの部分だけ耳コピして五線譜に書いて渡したことがあった。しかしアガタのギタープレイを聴いた者は一人もおらず、誰も期待していない、かなり怪しいリード・ギタリストだった。

 それはともかくメンバーを見て、誰もが思った『ドラムスは?』

 ロックバンドにとってドラムが無い、という事は致命的欠陥である。しかし、いないものはいないのだ。否、厳密に言えばそれは嘘になる。彼等の2年4組には青山純という男がいた。小柄でいつも濃紺系の地味な服装をしていたが、眉毛がキリッとした所謂ハンサムボーイで、それでいて女の子が夢中になっているという噂は無かった。

 クマ達はそれ程親しくはしておらず、ただ、彼がヤマハの音楽スクールに通っている程度の情報しか持っていなかったが、何かの折、青山がクマに「クロスビーとかやってるの?」聞いた事があった。クマは『うん』と頷きながら「今、何か活動してるの?」と尋ねると「屋上のビアガーデンとかで頼まれて叩いている位。」と自嘲気味に笑った。

 それでも高校2年生で既にセミプロであり、クマ達オチャラケ・バンドと遊んでいる暇など無かったのだった。

 クマもさすがに「一緒にやろう」とは言い出せなかった。その後、彼が日本のミュージックシーンに於いて一流のセッションドラマーになるとは、誰一人想像だにしていなかった。  <続>

 

  アグリーの作品の多くはデモテープだけで音源化されていない。これはそのテープをもとに随分後になって私一人で編曲、演奏、そして録音したものである。目指すは作者の意図を忖度して勿論ペット・サウンズだ。


渚の乙女/風のかたみの日記

 

      f:id:kaze_no_katami:20200521083123j:plain

       写真は青山純氏(卒業アルバムから)