新蕎麦を食す

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 親子三代以上脈々と続く生粋の江戸っ子ではないが、意地っ張りで喧嘩っ早く人情家で涙脆い。ついでに「宵越しの銭は持たない」と啖呵の一つも切りたいところ、残念ながら生来「金」とは縁遠い。それでも新たな季節の到来を告げる初物や旬の物には目が無く、多少値が張っても出来ればいち早く味わいたいとは思っている。  

 ところが、例えば秋を代表する庶民の味「秋刀魚」が昨年から極端な不漁に見舞われ簡単には口に出来なくなってしまった。そこへ持って来て新型コロナウイルスの来襲である。ひたすら「STAY HOME」を心掛け「うち飯」や「テイクアウト」偶には「宅配」に徹しているが、かれこれ一年近くも続けるとイイ加減うんざりするのが人情と言うものだ。

 そんな折り何気なくインスタグラムを眺めていたところ、 とある蕎麦屋の写真に目が留まった。『そうか、もう新そばの季節か』

 インスタグラムの主は東京は中央区日本橋室町に店を構える「紅葉川」(モミジガワ) 。正月の風物詩「箱根駅伝」の復路最終ランナーが「日本橋」を渡り、中央通りから大手町のゴールへと向かう最後の曲がり角「日本橋北詰交差点」に程近い場所にある。

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 元々は「藪」「更科」「砂場」等と並ぶ蕎麦屋の暖簾会「満留賀」の店として百年程前に出店し、30余年前に現在の「紅葉川」に改名したそうだ。店の入口の上には往時の物と思われる古い木製の看板が今でも掲げてある。

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 「満留賀」について興味がある方はこちら。満留賀 - Wikipedia

 ところで「新そば」である。これは文字通りその年に収穫された「そば」の事を指すが、特に10月から11月にかけて穫れる物を「秋新」と呼び、香り高く喉越し爽快だという。因みに「紅葉川」では北海道沼田産の「玄そば」(殻付き蕎麦) を自前の石臼を使って製粉している。(沼田は最近話題の米「ゆめぴりか」の産地でもあるそうだ)

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 この界隈には「神田藪蕎麦」「室町砂場」「利休庵」といった名だたる蕎麦の老舗が揃っているが、実を言うと筆者は数十年前からこの「紅葉川」を贔屓にしている。鴨焼など酒のツマミ類が充実している事が理由であって、決してその昔、室町三美人の一人と謳われたらしい女将が目当てなどという事はない。かな

(三美人の残り二人は既に閉店した割烹松楽と宝家の女将)

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 しかし、ここに来てコロナ感染者数が急激に増加の一途を辿り、残念ながらゆっくりと酒席を楽しむ事は出来なくなった。それでも「新そば」は食べたい。かくなる上は日本政府ご推奨「マスク食事」に頼る他道は無い。そして11月26日午後五時、久し振りに暖簾を潜ったのである。

 因みに店内はスペースを充分に使ってディスタンスを確保しており、食べ物は最初から小皿にシェアして出す等、コロナ対策はしっかり実施されているように見えた。

 そしてこの日注文した蕎麦は「鴨せいろ」にねずみ大根の「辛味おろし」を追加した「風のかたみスペシャル」(下の写真) 。尚、この名称は筆者が勝手につけたものであり店でそう言っても通じないので、くれぐれもご注意願いたい。

 さて肝心の食レポ、そんなもの美味しいに決まっているではないか。

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 紅葉川:東京都中央区日本橋室町1-2-4 三越SDビル1F 03-3279-2003

 尚、今回掲載した写真は、紅葉川の了承を得て同店のインスタグラムから拝借したものである。