ウィ・スキー(WE SKI)

f:id:kaze_no_katami:20220123165256j:plain

 スキーについて書こうと思いつき、あれこれ考えていたら、以前にも同じ事を書いたような気がしてきた。

 早速、調べてみると3年前の記事を発見。またしても手抜きではあるが、せっかくなので若干リライトし再掲することとした。

 

「白銀は招くよ」(2019年2月27日 初回投稿)

 私が初めてスキーに行ったのは20代半ば、社会人になってからだ。それも自ら望んだ訳ではなく、会社の先輩に無理やり誘われ、仕方なく付き合った次第。

 何故、それ迄スキーの経験が無かったかと言えば、大学時代は音楽に夢中。高校までは水泳部にいた為で、冬場は陸上トレーニングか温水プールで泳いでいたせいである。

 従って、スキーに限らず所謂ウインタースポーツの類は一切経験が無く、丹下健三が設計した代々木の室内競技場が、冬期はスケートリンクになり、同世代の男女がスケート靴を肩にさっそうと正面玄関から入ってゆくの眺めながら、私一人、競泳用水着を持って、その横にひっそりとある練習用プールに通っていた。 

 それはともかく、私は強制的に購入させらたスキーウエアだけを用意して、夜行バスに揺られ長野県のスキー場にやって来た。板とブーツは現地でレンンタルである。

 朝から早速ボーゲンの特訓を受け、昼頃にはなんとか緩斜面を滑る事が出来るようになったが、一人で滑っていたところ大ゴケをしてビンディングがずれ、ブーツが入らなくなってしまった。

 それでも一応常識ある人間として、邪魔になってはいけないと考え、板を担ぎゲレンデ脇を歩いて降りた。しかしそこは新雪のままの状態。太股まで雪に埋まり、完全に体力を使い果たして、そのツアーはそこで終わった。

 初体験で散々な目に会いながら、しかし、何故か、私はスキーを嫌いにはならなかった。それからひと月後、今度は樹氷で有名な山形蔵王へ友人と行ったのだ。そして翌年も、その次のシーズンも何度かゲレンデに足を運び、徐々にスキルもアップして行った。

 やがて気がつけば、いつしか会社でスキー部を作り、会員を募って年に1度ツアーをセット、初心者の面倒を見つつ、個人的には上越、信州、北海道へと足を延ばした。

 さて、何故、そこまで私はスキーが好きになってしまったのだろうか。

 恐らくスキーというものは、道具を身に着けるものの、何ら動力に頼らず生身で出せる最高速度を体験出来るスポーツと考えられる。

 速度は速くなればなるほど、一歩間違えれば死に至るという危険性を伴う。そして死に近づく事は、ある種の陶酔感、恍惚感を呼び覚ます。それが根っからのスピード狂人間の性格に合致したのだろう。

 私はW杯の選手と同じ板を履き、自分の技量だけを頼りに、死と隣り合わせの危険な滑降をしているのだ。勿論、W杯のようなスピードは出せない。そんな事をしたら本当に死んでしまう。それでも足の脛にブーツが食い込むような、そんな感覚とともに前へ前へと体重をかけてゆく。

 その姿勢のまま急斜面に突っ込んで行く。斜度がきつくなればなるほど腰が引けないよう前傾が必要になる。それはかなりの恐怖感を伴う。それでも、そうやって私は長年に渡り怪我も無く、幾つもの斜面を駆け下りてきた。 

 とは言っても『華麗なる緩斜面、必死の急斜面』、実際は何とか転ばずに降りて来る程度の実力である事は否めない。

 季節はまさにスキーシーズン。現在はスノーボーダー人口の方が多いようだが、私はその後、腰を痛め、残念な事にスキーが出来る状態では無くなった。エッジを磨き、ワックスを塗っては削り、シーズン到来を待っていたあの頃が、今は無性に懐かしく思えてならない。

 仕方ないので代わりに今夜は少っちウィスキーでもやるかな。 

      f:id:kaze_no_katami:20220123160726j:plain