このソバらしい世界 ~江戸の三味~

 先週の「好きな公園」に続き、今週のお題何の捻りも無く「好きな街」との事。ここで「ニューヨーク」とか「ロンドン」「パリ」と言ってみたら、さぞや恰好良いだろうと考えたが、如何せん何処も、たった一度行ったきりで、好き嫌いを判断する程の経験を持ち合わせていない。

 だが、それに引き換え、何十年と通い続け、途轍もなく長い時間を過ごし、表通りから裏通りまで殆ど知り尽くした、お気に入り場所がある。

 話が回り諄くなるのはいつもの悪い癖だ。端的に言えば勤務先の会社があった東京都中央区日本橋室町が私の「好きな街」なのである。 

 事務所は昭和4年に竣工した三井本館というビルの中にあったが、現在ここは、所有者である三井不動産と三井系の銀行が二行以外、テナントは入っておらず、オフィスビルから重要文化財へとその役割を変えている(お陰で我々は追い出された)

         

 その三井本館の中、アンモナイトの化石が埋まった大理石の壁に囲まれ、薄暗くひんやりとした赤絨毯の廊下を進み、内装が木製のエレベーターで1階に降りると、そこは銀行。更に地下へ行けば飲食店、本屋、床屋、クリーニング店もある。

 また、ビルから直結する地下道には地下鉄銀座線「三越前」の駅、10m程歩けば三越デパート。少し足を延ばせばJR総武線 (快速)「日本橋」、地下鉄半蔵門線三越前」、すべて雨の日も傘を差さずに行く事が出来る。

 一歩地上へ出れば、江戸時代から続く様々な老舗の数々。宮内庁御用達の看板を掲げた商店。大手金融機関の本支店。加えてサラリーマンの夜の聖地「神田」までは700m。大人の社交場「銀座」へは1.5km。

 そんな環境に長年ドップリ浸ってしまうと、人間はすっかり怠け者なってしまう。確かにここは、新宿や渋谷といった都内の他の繁華街とは違い、どことなく落ち着いた雰囲気に包まれた安心出来る空間だった。

 しかし、最近は三井不動産主導で再開発が進み、「コレド室町」と名付けられた新しいビルが何棟か建設され、かっての面影は消えつつある。

 それでも私は外食するに際しては、ついこの地域にあって、昔から知っている店を選んでしまう。

 去る4月28日、大型連休中の人の移動に伴うコロナ感染者増加を予想した我々大学の同級生3人は、急遽、飲み会を開くことを決めた。今回の幹事を任された私が選んだ行く先は、もはや言うまでもないだろう。

 下の写真は、当日眺めた日本橋の上に架かる首都高速道路。2035年には地下に潜り撤去される予定らしいが、果たしてこの目で見る事が出来るだろうか。

         

 幾度となくこの橋を訪れたにも拘わらず、写真を撮るのは初めてだった。(改めてスマホの便利さを実感)

             

 すぐ横にある「日本国道路元標」。日本全国の道路は全てここを起点とする。

         

 午後5時、宴会開始。店はもうお馴染みの蕎麦屋「紅葉川・日本橋本店」(テーブルが料理で一杯になると何故か幸せな気分になる)。

         

 いつものように白ワインを頂く。

             

 最近のワインクーラー。省スペースで持ち上げても冷水が垂れないところがグー。

             

 そして遂に蕎麦を食べる事が出来た。この店の一番人気「鴨せいろ」と、特別に「辛味おろしねずみ大根」のつけ汁一式を美人女将に注文。こんな我儘を言うのは私くらいのものだろう。

 良く冷えた細目の蕎麦。腰があって尚且つ喉ごしも良い。実に美味い。

         

 ところで、ここまで書いて気がついた。「好きな街」の話はどうなってしまったのだろう。