「こんど、君と」(後編)

 

 ♩ 君住む街まで飛んでゆくよ 一人と思わないで いつでも ♩

 小田和正オフコース解散後、1989年から本格的にソロ活動を始め1991年、あの伝説の月9ドラマ「東京ラブストーリー」の主題歌「ラブ・ストーリーは突然に」をリリース、260万枚のミリオンセラーを記録しヒットメーカーとしての地位を確立した。

 その後、1996年に「LOOKING BACK1」、2001年には「LOOKING BACK2」を発表。この二作はかってのオフコース時代の楽曲を新たに編曲し直しセルフカバーしたもので、大きな話題にはならなかったがそれなりの評価を得た。

 しかし私にはあまりしっくり来ない。確かにオリジナルが録音された頃は存在していない機材や楽器を使用し今風な印象は受ける。しかしヒットに恵まれず、副業として数々のCMソングを歌いながら、それでも地道に自分達の音楽を続け、♪ どんなに小さくなった自分でも 夢さえあれば なんとか生きてゆける ♪(水曜日の午後)や、♪ ああ ありふれた幸せに 背を向けてゆく勇気が欲しい ♪(ひとりで生きてゆければ)といった悲壮感漂う曲を歌っていた頃の、心の叫びは伝わってこない。

 ところが今回のコンサートでのアレンジは、どちらかと言えば昔のオリジナルに近いように感じた。考えてみれば、オフコースのデビュー当時をリアルタイムで知っているという人達は、小田と同じようにかなりの高齢になっており、そのようなオーディエンスには昔の香を少し。片や小田の孫のような年代のファンには今風な感覚でという事だろうか。

 また、更にうがった見方をするならば、昔の楽曲からオフコース結成以来の相方、鈴木康博のギターフレイズを全て削除したかったのかも知れない。

 因みに今回の公演に集まった観客は圧倒的に女性が多く年齢層は高い。今から約半世紀前、オフコースが日仏会館や神田共立講堂等を会場にしていた頃、コンサートにやって来るのは容姿端麗、知的で控えめな女子大生と相場は決まっていた。その彼女達も今ではもう60代になっているのだ。

 だが、どう見ても10代後半から20代前半の女性客の姿も見える。彼女達がどのような経緯で小田和正を知り、決して安くはないチケットを購入して、ここに来たのかは判らない。それでも彼女達は、今回もアリーナ席を囲むように設置された花道を、小田が歌いながらゆっくりと歩き、自分達に向かって手を振ると、両手を千切れんばかりに振って答えるのだ。

            

 私はふと思う。『あそこで手を振っているのは75歳の老人だよ。あなた達は自分の爺さまにも同じように出来るの』 

 ところで11月15日、いつものようにパソコンで新聞やテレビの記事を集めた頁を眺めていると、「小田和正がライブで起こしていた異変」という見出しが目についた。開くと、とある女性週刊誌の記事で、曰く、

 声、特に高音が出ないか掠れて聞こえない

 歌詞を間違える。出だしから歌詞が飛んで歌にならずバックメンバーに助けられる。

 それを見かねた観客が、マスクをしたまま禁止されている大合唱を始める。

 これに対して私が言える事は、私は全ての公演を見た訳ではないので、声が出なかった時もあるかも知れないと思う。しかし私が行った10月19日はツアーの後半戦で疲労もピークを迎える頃だろう。それでも小田の声はかすれる事も途切れる事もなく、いつものあの声であった。

 次に歌詞である。確かに間違う事は以前から偶にあったが、飛んでしまい全く歌にならないとは考えられない。何故ならば会場内には従前より歌詞を表示する電光掲示板が数台置かれており、私は最初、観客が一緒に歌う為に用意されたものと思った。だが今回、コロナ禍で合唱が制限される中、相変わらず電光掲示板はある。という事は、これはもう小田が花道を移動しながら、どの位置にいても歌詞を確認出来ると考えた方が自然ではないか。従って歌詞が飛ぶとは俄かに信じ難いのだ。尤も彼の場合、感極まって歌えなくなる事は偶にある。

 話は前後する。11月9日、小田は本ツアーの当初スケジュール最終日を横浜アリーナで迎えた。横浜は彼の出身地であり思い入れもあるのだろう。事実この地を舞台にした歌を何曲か書いている。

 さて、今回は自身が新型コロナに感染の為、東京2公演、沖縄2公演を延期。加えて台風接近により福岡1公演を中止した。この振替公演として沖縄は11/30、12/1。東京は来年6/28、29。またこれとは別に全国8か所、16回の追加公演を行う事が決定。最後はまた横浜になるという。

 そして私は少し気になる情報を得た。11月9日の横浜で小田は最後に例の言葉「また会おうぜ」と言ったらしい。発信源は小田バンドの常連、いつも元気なバイオリニストの金原千恵子なので多分間違いないだろう。

 果たしてこの「また」は来年の追加公演の横浜を指すのか、それとも全く新しいツアーを考えているという意味だろうか。

<2022年10月19日 セットリスト>

 1.風を待って

 2。会いに行く

 3.愛を止めないで

 4.秋の気配

 5.やさしい風が吹いたら

 6.想い出はうたになった

 7.言葉にできない

 8.たしかなこと

 9.キラキラ

【 ご当地紀行 】

 10.so far so good

 11.やさしい雨

 12.Yes-No

 13.ラブ・ストーリーは突然に

 14.明日

 15.ナカマ

 16,生まれ来る子供達のために

 17.今日も、どこかで

 18.こんど、君と

 19.君住む街へ

【 アンコール 】

 21.またたく星に願いを

 22.YES・YES・YES

【 ダブルアンコール 】

 23.hello hello

 24.やさしい夜

 25.また会える日まで