カリフォルニア・ロケット燃料

 今回のタイトルは知る人ぞ知る、知らない人は勿論知らない、「カリフォルニア・ロケット燃料」。名前からして何とも勇ましいと言うか、元気が出そうな響きがあるではないか。

 しかしよく考えてみると、アメリカの主たるロケット発射場はケープ・カナベラルで、それはフロリダ州にある。加州にあるのは宇宙旅行用のモハーベや軍事関係のヴァンデンバーグ位だ。

 それではこのカリフォルニアで特別強力な燃料を製造しているのであろうか。答えは多分否である。ここで多分と断るのはそこまでトレース出来ないからだ。

 さて、もったいぶるのは止めて早々にこの言葉の正体を明かすと、宇宙とは恐らく全く何の関係も無い、ある疾病に有効かも知れない薬の組み合わせを指している。

 これ以上書くと何やら自分の個人情報を切り売りするようで、抵抗が無い訳ではないが、まあ特段隠す必要も無いので続ける事とする。

 かって私は不幸な事に、酷く気分が落ち込み、何もしたくなくなるという状態が暫く続いた。これは生まれて初めての体験で、舞台俳優でも無いのに突然奈落の底に落ちたような気分だった。夜は眠れず気持ちばかりが焦る。

 それでも、このような悲惨な日々を放置しておく訳にもいかず、私は殆ど躊躇せずに、これも初めて精神科に特化した病院に向かったのだ。この辺の思い切りの良さは、先ず私は自分の脳内で一体何が起きているのか、それを探求したい欲求と、辛うじて残っていた僅かばかりの気力のお陰である。

 はたして病院に到着し手続き終了後座って待っていると、奥の方から泣き叫びながら飛び出して来た若い女性と、それを追う母親らしき二人が目の前を駆け抜けた。それを見て私は、「遂に来る所迄来たな」と覚悟を決めた。

 その後は問診やDSMというマークセンス・テストみたいなものを受け、その結果下された判断は「中度のうつ」。そして抗うつ剤睡眠薬の処方。

 それからというもの、とにかく私はうつ病に関する図書を読み漁った。中にはテレビ等に出演している自称臨床医の女性が書いたとんでもない内容の著作物もあったし、友人の奥方からは「ツレうつ」なる漫画本も送られて来た。

 情報収集した結果、取敢えず私が達した結論は、服用している抗うつ剤が古い事とその処方量が少な過ぎるのではないかという推論だった。

 更にネットで米国の資料などをチェックし、そして私は遂に見つけた。「カリフォルニア・ロケット燃料(California Rocket  Fuel)」。これは当時新薬であったSNRIとNaSSAの組み合わせで、最強のうつ病攻撃ロケットである。私は医者を説き伏せ、自ら処方箋を作成し自分の要求を叶え服用した。

 しかし、全ては徒労に終わり、その後、かれこれ2年近く様々な薬を飲み続けたが全く改善されず、他には頭に電気を流すショック療法も考えたりしたものの、一時しのぎで再発しやすいとの事で止めた。

 そこで今度は、全ての治療を止める事に決め、転院して徐々に投薬を減らし、約半年後には完全に薬が抜けた状態となった。そして気が付けば気分も改善されていた。

 ここで一つだけ詳らかにしたい事実がある。それは心療内科と謳っている病院又はクリニックは非常に多いが、これは別に精神科専門医ではない単なる内科医でも開業出来るという事である。

 そもそも日本精神分析学会長はあの「帰ってきたヨッパライ」の北山修氏だった。しかし彼にしても、盟友加藤和彦自死を止める事は出来なかったではないか。

 世の中にうつ病で悩み、辛い毎日を送っている人は相当数に上り、残念な事に自ら大切な命を絶つ人も減少はしていない。私などが偉そうな事を言える立場ではないが、唯一言、生き続けて貰いたい。そして出来れば一緒にロケットに乗って宇宙とやらに行って見ようではないか。

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