北西の空は晴れていた

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 5月26日は満月が地球に近づく「スーパームーン」。おまけにその月が完全に地球の影に入る「皆既月食」。しかも次回この現象が起きるのは2033年10月8日、12年も先の事だという。とてもそこまで生きている保証も自信もない。

  日頃草花の写真ばかり撮っている私だが、これはもう万難を排して撮影するしかない。幾つになってもミーハー感覚が抜けないせいか、そう思った。

 しかし考えてみれば、この今年最大の天文ショーは、ネット配信はあるし、恐らくテレビのニュースでも放送するだろう。

 彼等は私などより遥かに高性能な機材を使用、ましてや写す事を生業とするプロフェッショナルだ。たかだか300mmのズームレンズで、ド素人のオッサンが太刀打ちできる相手では無い。

 そう、家でビールでも飲みながら、大人しくパソコンかテレビに映る月を見て満足していればいいだけの話である。

 実は今回のイベントを迎えるにあたり、私の計画は撮影した写真を時系列的に並べ、GIFアニメ的スライドショーを作成しYouTubeにアップ、ブログに投稿する心算であった。因みにBGMはドビュッシーの「月の光」か今や見る影も無い鬼束ちひろベートーヴェンの「月光」で決まりだ。

 果たして26日当日。朝から都度天気予報をチェックしていると、時間が進むにつれて状況が悪くなってゆく。最初は晴れマークが並んでいたのに次第に曇が増え、ちょうど月食が起きる時間帯だけが辛うじて持ち堪えている。

 19時前、カメラを持って外に出た。しかし月が現れる南東の空には厚い雲がかかっていた。それでも暫く様子を見ていたが月の姿は見えない。一旦家に戻った。

 20時、再び出掛けた。既に皆既食は始まっている筈だが、相変わらず月は見えず、雲が晴れる気配もなかった。

 北西の空に目をやると、何とこちらは星が出ている。私は大きく溜息をつき、家に帰ってネットの実況中継を観た。撮影場所は小笠原か仙台以北で、やはり関東以西では見えないのだろう。私の目論見は崩れ去ったが、こればかりは仕方がない。

 そして赤く染まった月を見ながら私は、ふと昔の事を思い起こした。

 小学生の頃、親に買って貰った天体望遠鏡で、それまで本でしか知らなかった世界のごく一部を垣間見る事が出来るようになった。荒々しい月のクレーター、横一線に並んだ木星ガリレオ衛星、薄っすらと浮かんだ土星の環等々。すべてが感動的だった。

 それ以来私はすっかり宇宙にハマって、今は無い渋谷の五島プラネタリウムに通ったり、観る映画と言えばテアトル東京でシネラマの「2001年宇宙の旅」だった。大人になっても科学雑誌ニュートン」を定期購読していたが、インターネットで情報が得られる今は流石に止め、天体望遠鏡も処分した。

 そして同じように、幼い日々、夜空を見上げて遠い未来を想ったあの頃の、優しさも、喜びも、そして夢も、みんないつの間にか行ってしまった。

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