年年歳歳

 毎年この時期になると日本全国が年越しモードに突入し、何かと気ぜわしくなる。何もそこまで慌てなくてもいいのにと思うが、あっと言う間に時間は過ぎ、気が付けば年が明けている。

 しかし、考えてみればそれは決して珍しいことではなく、いつもの年末年始、もう何度も同じように経験して来た事ばかりである。

 珍しくないのであまり記憶に残る事も少ない。朧げな印象はあるものの、それが一体いつの出来事だったか甚だ定かではない。

  そんな風に思っていたら、今でもしっかり忘れずにいる年越しがあることに気がついた。以下はその羅列。

 

 高校三年の冬休み、家族で箱根へ泊りがけで出掛けた。私は目の前に大学受験、四歳上の姉は五月に結婚を控えていた。箱根は珍しく白銀の世界。深々と降り積もる雪を眺めながら、炬燵に入って未成年の私は熱燗を酌み交わしていた。考えてみるとそれが最後の家族旅行だった。

 社会人になって数年が過ぎた頃、御用納めの日、昼過ぎに退社すると地元の本屋へ行き、司馬遼太郎の「坂の上の雲」を全巻購入した。その正月休みはテレビも見ず、寝る間も惜しんで、ただひたすら読み続けた。そして長い物語の終了と共に、私は仕事始めの日を迎えた。

 西暦が1999年から2000年に変わる節目、私は父親一人になった茅ヶ崎の実家へ行き、紅白歌合戦を見ながら二人で酒を飲んでいた。騒がしい「蛍の光」が終わり、一瞬沈黙が訪れると、雪深い永平寺の除夜の鐘がテレビから聞こえた。そしてその時、まだ部屋の灯りは点いたままだった。大騒ぎだった2000年問題を何とか無事に凌いだのだ。ただ、冷蔵庫には大量の水のペットボトルが取り残されてしまった。

 

 こんなところだろうか、意外と少ないものだ。何か心に残る年末年始が、もっとあってもいいような気がする。特に今年は「平成最後」という事でもあるし・・・。

 しかし、何事もなく静かに淡々と同じような時を過ごす。それはそれで何と素晴らしく、また幸せな事だろうか。そしてそれこそが「平成」の名に相応しい年の瀬と言えるかも知れない。

 物事をそんな風に思える程、いつの間にか私も歳を重ねてしまった。

 

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