How about tonight?

 いきなりで恐縮だが、昔ノーテンパーという言葉があった(ノーパンxxxでは無い)。何故かは判らないが最近はめっきり聞かなくなった。勿論何れもあまりいい言葉では無いのでその事は構わない。

 ただ以前、誰かがこの言葉を使った瞬間、不思議な事に私は敏感にそれに反応し、その語源に疑問を持つに至った。と言うか突然灰色の脳細胞に何かが閃いたのだ。

 恐らくこれは脳天パーと解するのが普通だろう。脳天とはそのまま頭のてっぺんの事で、パーはクルクルパーの略。至極ご尤もで分かり易い。

 しかし私はこう考えた。ノーテンパーという言葉は元来日本語では無く、しかも古くからある言葉でも無い。発生したのは太平洋戦争終了後、日本に進駐して来たアメリカ人が、愚かな行為をした日本人に No Temper と言った事が始まりではないのか。

 temper は気質とか気性という意味であり、これが no なのだから、気質が無い、即ち馬鹿者という意味のスラング。実に的を得た推論である、と思う。

 これを証明する為、早速調べてみた。しかし何処をどう探してもそれらしきエビデンスは見つからない。仕方が無いので更に考えた、元は no talent なのだ、即ち脳足りん。

 この言葉を日本人がアレンジをしてノーテンパーという造語が生まれた。と更なる持論を展開し、ある時恐る恐るアメリカ人にそれを訊ねてみたが、あっさりノータレントはそのような意味では使わないとの事。私は日本語研究上の大発見を否定されて、金田一先生に泣きつくしか無いと考えたが、氏は既に鬼籍の住民となっていた。

 本件について私はまだ諦め切れずにいる。しかし言葉自体が死語となっては、それ以上追求する意味も薄れてしまった。出来る事なら誰か跡を継ぎ、更なる研究をして貰いたいものである。

 その後ある時、親しく取引をしていた地方の経営者から次のような質問を受けた「昔パン助進駐軍に幅幅(ハバハバ)・トゥナイトと言いよった。どげんか意味ね」

 すっかりその時代に精通している気分になっていた私は、即座に答えた。「多分How about tonight(今晩どげんね) という事でしょう」

 さすがに今はなき数寄屋橋で真知子巻きをしていた女性達の事は知らないが、そうやって私は、いつも何の役にも立たず詰まらない事ばかり考えているのだ。

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