キャンディーズ賛歌(スピンオフ)

 前回キャンディーズのハーモニーについて投稿した。沢山の方々からのアクセスや☆ (スター)、そしてコメントを賜り改めて心より御礼申し上げる。

 その原稿を書いている最中は懐かしさからか関連するエピソードを次々と思い出し、取敢えず見境なく書き綴っていたが、気がつくと途轍もない長さになってしまい、泣く泣く削除した結果があの投稿となった。

 それでも取敢えず没にはしたものの、中には我ながら捨てるに惜しい興味深いかも知れない記述もあり、別途保存していたので今回はその中の一つを披露したい。

 さて、キャンディーズの解散が決まり終焉に向けてカウントダウンが始まった頃、私は彼女等のアルバム全制覇計画を立て何とかそれを完遂した。

 そこで一番気になったのは、何故か楽曲や歌唱とは全く関係の無いレコード自体の音質だった。因みにキャンディーズのレコードはすべてCBSソニーが制作販売しており、当時同社はノイマン社製のSXー68というカッティングマシーンを導入、音質の高さを盛んに吹聴していた。

 一方キャンディーズに限って言えば、中期に発表された作品のどれもが、高域への偏りが凄まじく兎に角キンキン、シャリシャリした音作り。はっきり言ってこれを高音質とは言い難い代物であった。これはAMラジオで目立つ音質に仕上げた心算だったのだろうか。

 勿論それだけならばプリアンプのトーン・コントロールを弄ればいいのだが、問題はレコードから音を拾う時に起きていた。なんと高域が時折ガリガリ ( これは気にならない人には多分判らない程度の極僅かな歪 ) という音で一瞬潰れてしまうのだ。

 そこから私の悪戦苦闘の日々が始まった。即ち、如何にしてその高域をクリアに拾うかである。

 先ず疑ったのはレコード針とそれが付いているカートリッジ。当時私はパイオニア製DCサーボモーター・ダイレクトドライブ ( 世は未だベルトドライブ全盛期だった ) のプレーヤーを使用しており、カートリッジは付属の物しか持っていなかった。

 そんな或る日、たまたま近所の大型スーパーがオーディオ・バーゲンセールと称した催しを開催、チラシ広告には公示価格5万円以上のエンパイヤ4000D/1というカートリッジが何と90%オフという超破格値で印刷されていたのである。

 早速それを入手。ところがこれがとんでもない代物で高域を強調する事甚だしく、ただでさえキンキラキンのキャンディーズのレコードには決して使ってはならないアイテムだったのだ。

 最早こうなっては、多くのオーディオ誌で高評価を受けているSHURE-V15 TYPEIII を入手するしか選択肢は残されていない。更なる出費は貧乏学生にとっては痛いが、私は清水の舞台から飛び降りた。

 SHUREは評判通り素晴らしい音だった。しかし、残念な事にキャンディーズのレコード関しては何ら改善されなかった。相変わらずボーカルが高い音域になると微かに音が潰れるのである。勿論針圧などを変えて種々試みたのは言うまでもない。

  失意の私は問題追及の為、レコードとカートリッジ片手に学友の家へ赴いた。彼は当時としてはマニア垂涎のシステム、即ちDENONのターンテーブルとそれを納めるケース、オルトフォンのトーンアーム。要するにレコードプレーヤーをコンポーズしており、それだけである程度のステレオセットは優に購入する事が出来た。これで再生できるか否かが判断基準の一つとなり得る。そう考えたのであった。

 果たしてその結果は。何と完璧に音を捉え高域にも追従し、決して潰れるような事は無い。しかもあのエンパイヤのカートリッジでも同様なのだ。全くもって見事としか言いようが無かった。

 しかしここで私はある疑問に突き当たる。「そもそもこの問題の本質は一体どこにあったのか。製造者のCBSソニーとしてはかかる現実を把握しているのだろうか」

 素人であるところの私の理解では、レコードは先ずマルチトラック・レコーダーに伴奏と歌を録音し、それをミキシングして2トラック2チャンネルにトラックダウン、所謂マスターテープを作る。その時、プロのエンジニアがJBL等のスタジオモニターを聴きながら行うのである。その作業の中で一体どうしたらこんな音質になってしまうのか。

 私の疑惑は音盤を削るカッティングマシンへと注がれた。あのノイマン社製SXー68の事である。あれがマスター・テープからレコードとして片チャンネル45度ずつ合計90度の溝を削り取っているのだ。カッティングの精度が高すぎるあまり、コンシューマーの再生機器の能力を超えてしまったとでも言うのだろうか。

 今や楽曲を入手するにあたっては勿論CDも健在だが、完全デジタル化されネットからダウンロードする時代になった。しかし最近になって再びレコード化する動きもあるようだ。アナログにはデジタルではカットされるようなレンジが存在し、そもそも周波数の波がギザギザな訳が無い。

 時は流れ、私は昔のステレオ・システムを全て処分してしまい、現在は所有するレコードを聴く事が出来ない。だが、もし新しく購入するとしたら、必ずキャンディーズのレコードを持参して電気屋に行き、あの高域をきっちり再生出来るかをある種の指標にしようと考えているのだ。 

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