夏の始めのハーモニー(都人への密かなるオマージュ)

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 先日たまたまYouTube海上自衛隊の歌姫、三宅由佳莉三等海曹の歌を聞き、甚く感銘を受けた。確かにあのような圧倒的歌唱力の独唱は、他の追従を許さないものがあると思う。しかし、それでも子供の頃からサイモン&ガーファンクルCSN&Yキャンディーズのフリークである私は、矢張りハモりが無いと何となく物足りないように感じてしまう。

 という事で今回はその「ハモ」について深く掘り下げてみようと考えた。そこで早速「鱧」である。なんのこっちゃ。

 ところで世の中には「長いもの」が苦手という人がいて、土用の丑の日などには一切興味は無く、全く鰻を食べなかったり、中には写真を見ただけで嫌悪感を持つ場合もある。従ってそのような方は、これから先へは進まない事をお勧めする。

 さて、かく言う私は「長いもの」の中で鰻は普通に食べるが、流石に蛇は嫌いであるし、鰻と同じ仲間のウツボは食べようとは思わない。因みに穴子もあまり好きではない。

 ところが、これが「鱧」になると話は違う。

 一般的に「鱧料理」といえば京都が有名である。しかし京都には舞鶴など日本海側には海はあるものの、「鱧」の水揚げ量が圧倒的に多い瀬戸内には面していない。かって只でさえ暑い夏の京都に、その瀬戸内から生きたまま輸送可能な鮮魚は「鱧」しかいなかった。そしてそれ程の強い生命力を持ち合わせた魚を食べれば、精力がつき夏バテ防止にもなる。というのが「鱧食始まり」のストーリーらしい。

 因み私が初めて「鱧」を食べたのは社会人になってからだと思う。そこそこの店に案内されると、皿に乗った白い身と梅干しを潰したような物が運ばれて、見様見真似で食べてみる何とこれが絶品ではないか。

 食べ物の嗜好は年齢と共に変化する事が多いが、鱧に関してはそれ以来、私の「好物ベスト10」内に留まったままである。

 であるからこの季節、和食系の店に行き、お品書きに「鱧」の文字を見つけると、まず間違いなく注文する。だが高級店はともかく居酒屋レベルでは冷凍品しかなく、残念ながら美味しいとは言い難い。尚、私は病が高じ終いには京都の専門店を予約して、その為だけに新幹線に乗った事もある。

 勿論、わざわざ京都まで行かずとも東京にも「鱧」の専門店はある。唯、天ぷらや蒲焼、鍋など調理方法を変えたとしても、食材が全て鱧では流石に飽きる。私としては湯引きした「鱧」を少量食べれば満足なのである。

 今でこそ首都圏のスーパーでも骨切り湯引きした鱧を見かけるようになったが、これも殆どは冷凍物であり、中には噛んだ瞬間、口の中に水が溢れ出す程度の低い代物まである。

 はっきり言える事は、そもそも鱧の湯引きは活きた鱧を使わなければ「鱧の湯引き」とは言えないのである。

 そこで昨年、 私の数少ない馴染みの店「鮨さいとう」の大将に相談したところ、二つ返事で「出来ます」と言う。御足が幾らになるか確認はしなかったが、京都に行くよりは安いだろう。早速事前予約をして出掛けた。以下はその記録である。

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締めたばかりの鱧

  大将が見習さんに下ごしらえを任せたが、カメラを向けると緊張してしまったようだ。


鱧の湯引き1/風のかたみの日記

  そして大将が「骨切り」


鱧の湯引き2/風のかたみの日記

  骨切り後、湯引きをして出来上がり。不味かろう筈が無い。

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鱧の湯引き

 「鱧」を生食しないのは血液に毒があるからだそうだ。これを料理として食べられるようにする迄、恐らく多くの犠牲を払ったに違いない。私はここに、食文化の為、人知れず命を賭して挑んだ京都人の開拓精神に敬意を表するものである。

 そして、いよいよ金鳥鱧の夏がやって来る。移ろう季節を愛でながら旬のものを頂く事は、日本人として最高の贅沢であり悦びである。しかしここに来て新型コロナウイルス感染者の絶対数は再び増加傾向にある。この夏はハーモニーも諦めざるを得ないのだろうか。

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