Cry for the moon.

 先月に続き「月」の話をする。そもそもこの地球の衛星は、今から46億年前、太陽を中心に、その引力が及ぶ天体から成る太陽系が形成される中、出来たばかりの地球に火星と同サイズの天体が衝突、飛び散った破片が地球の軌道上を回転しつつ、合体して出来たという説(ジャイアント・インパクト説)が有力である。

 ところで私達は空が晴れてさえいれば、毎月1回、年間12回の満月を見る事が出来る。時には先月のように皆既月食天王星の食が同時に起きるという、数百年に一度のイベントもあり当然話題になる。

 しかしマスコミや極一部のマニア並みに、高性能な機材を所持していれば撮影も可能だろうが、当方みたいにグリコのおまけ程度では、実際のところ天王星の影も形も確認すら出来ずに終わった。

 さて、そこで今月の満月である。謳い文句はこれ、『火星が見頃 今日8日は今年最後の満月 月が火星に接近』。それだけでは判らない私のような者の為、ご丁寧に図解もある。

         

 「なるほど、これを見る限り月と火星は確かに近い。あわよくば、おうし座で最も明るいアルデバラン(0.89等星)も一網打尽ではないか」。おまけに天気予報は晴れ。これはもう行くしかない・・・でしょ。 

 とは言っても気になる点があった。通常2等星程度の明るさしない火星が、マイナス12.7等星を誇る満月の明るさに霞んでしまうのではないか。

 以下はそれに対する説明である。

 「12月1日に地球に最接近した火星は8日に衝(しょう)となる。衝とは太陽系の天体が、地球から見て太陽とちょうど反対側になる瞬間の事で、この頃火星はマイナス2等星と最も明るくなる」。

 何やらよく解からないが、火星の地表の100%が太陽光を反射するから明るくなるというのか。否、そんな事よりマイナス2等星という数字である。太陽を除く全天の恒星の中で最も明るい、あの青白い輝きのシリウスおおいぬ座)のマイナス1.46よりも明るいと言うのだ。

 そして12月8日午後5時、辺りはもうすっかり暗い。低い空に薄い雲が漂っているが概ね晴れている。今回は一番使い慣れている70-300mmと前回は重いので避けた150-500mmのズームレンズ2本を持って午後6時半、家を出た。

 先月、皆既月食を撮った同じ場所に到着し空を見渡すと、東北東に月は見えていた。先ずは試し撮り。

        

 続いて目を凝らし火星を探す。あった、あったが、思いの外離れている。しかもシリウスを超える光度とはとても思えない。そしてアルデバランといえば、更に東の方、火星と同じ位の明るさである。という事は火星の明るさは1等星程度か。

 この時点で私はアルデバランは諦め、月と火星に傾注することに決めた。

       

 どうだろうか。右上の端の方に微かに白い点があるのを見る事が出来るだろうか。これが「衝」状態になり、マイナス2等星にまで光度を増した火星の姿である。

 その後、レンズを500mmに付け替え50枚程写して帰宅。1枚ずつパソコンのディスプレイで確認したが、どうも芳しくない。

 あの日、あの時、あの人の心を捕らえる事が出来なかったように、月の撮影もその名の通り Cry for the moon. だったのだろうか。