月への尽きない想ひ

f:id:kaze_no_katami:20200806145904j:plain

 深夜ふと目が覚めた。見慣れた寝室がいつもより明るく感じられた。よく見ると光はカーテンレール辺りから漏れている。外を確認すべく起き上がり、カーテンを開く。その瞬間、私の眼は光の正体を捉えた。満月!

 小学生の時、天体望遠鏡を買って貰った。経緯台の屈折型だったが、フレキシブル・シャフトという縦横微調整可能な機能を備え、子供にしてみれば充分過ぎる立派な代物。

 木星ガリレオ衛星は勿論、条件さえ揃えば土星の環を見る事も出来た。そして圧巻は何と言っても夜空で一番大きな天体「月」である。

 それまでも写真などで、月の地表=白く輝く山岳部や「海」と呼ばれる黒っぽい平地、そして所構わず無数に空いた大小様々な穴ボコの知識はあった。しかし実際に自分の眼で見るのとは全く違う。時間の経つのも忘れ、いつまでも接眼レンズから目を離す事が出来なかった。

 「天文学者になろう」そう考えた時期もあったが、やがてそんな事は忘れてしまった。

 時は流れ2019年4月19日。その日が「平成最期の満月」だという事をニュースで知り、何を思ったか眠っていた古いデジタル一眼レフを取り出して撮影した。レンズは70mmのズーム。三脚無し。

         f:id:kaze_no_katami:20200806115823j:plain

 「海」は判るがそれ以外は有名な「ティコ」を含め、ぼやけて確認出来ない。そしてまた長い間、月は忘れられた存在になった。

 さて、深夜に目覚めた私は新しいカメラとレンズで撮影する事を思いつく。200mmの望遠、三脚無し。窓を開けるのは面倒なのでガラス越し、しかも網戸もそのまま。

         f:id:kaze_no_katami:20200806120406j:plain

 思いの外よく写っていると思った。ならば翌日は窓と網戸も開けてみよう。

         f:id:kaze_no_katami:20200806120521j:plain

 何と期待に反し真っ白。出来る限りの修正は全て試みたが、全く効果が無かった。そして私は思い出す「そもそも満月は明る過ぎて観測には適さない」。

 どうやら少し汚れた窓ガラスや網戸が、偶然適度なフィルターの役割を果たしたのかも知れない。

 そこで次の夜、網戸だけ開け窓ガラスはそのまま。もとより私は本格的に写真を趣味にしている訳ではないし、今時ネットを探せば高画質な「月」の写真は幾らでも手に入る。

 それでも幼い日、夜空を見上げ天文学者を夢見たように、今ある機材や技量を以ってここ迄来た事に妙に感動しているのである。

      f:id:kaze_no_katami:20200806115326j:plain