青春浪漫 告別演奏會顛末記 17

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10.『すべてとお別れだ』クマは心の中で呟いた (1)

 

 フェアウェル・コンサートを数日後に控えて、センヌキの家での I, S & N の練習は連日夜まで続けられた。しかし今まで吉田拓郎の歌が全てだと信じてきたセンヌキに、クマの高度というよりは、単にマニアックなだけの変則チューニングを使った演奏は、摩訶不思議な世界に過ぎず理解出来る筈も無い。いつまでたっても自分のパートを覚えられずにいる彼にクマは露骨に嫌な顔をしながら、何度も教え込まなければならなかった。 

 さて、ここで彼等が使っている変則チューニングについて少し触れたい。

 基本は以前にも述べたDチューニング = DADF#ADで、特にクマは自作曲にも多用したお気に入りの調弦だ。これはオーソドックス・チューニングのDとも相性が良く、PANで左右に振ってフィンガリングすると絶妙な雰囲気を醸し出す。


星の妖精/風のかたみの日記

 同じD系では、DADDAD、DADGBD も C, S, N&Y(クロスビー, スティルス, ナッシュ & ヤング)をコピーする上では必須である。DADDAD はDmにもDmajにも使える優れモノで、ソロプレイにも適している。(代表曲:青い目のジュディー =原曲のキーはE=)。またDADGBD はどちらかと言えばブルース系に向いている様である。

 そして一番難解なのが、D. クロスビーが用いる EBDGAD である。これはD系と全く違い、解放弦で弾いただけでも、不思議な感じがするチューニングで、当然通常コードの運指など使えない。クマは普通のオープンリールのテープレコーダーに9.5cm/sec で録音し、4.75cm/secで再生、音程は1オクターブ、速度も半分に落ちるが、一音ずつ耳で拾いコピーした。その曲「グウィネヴィア」を意地でもコンサートでやるつもりだったからである。 

 尚、C, S, N&Yのアルバムタイトルにもなった名曲「デジャ・ヴ」も、このチューニングが使われている。他にはジョニ・ミッチェル等が使うGチューニングもあるが、クマ達は上手く導入出来なかった。

 ところで、センヌキがクマから厳しいリンチ指導を受けていたある日、戸塚に引っ越したばかりの「うたたね団」メンバー、トシキがわざわざ練習の見学にやって来たが、彼はセンヌキの弟で未だ3歳のサブの面倒を見るはめになってしまい、階段の上下でみかんを投げ合って、結局、練習に参加する事が出来なかった。因みにセンヌキは三人兄弟で、兄の名は一郎、本人は二郎、弟は三郎という。分かり易いと言えば確かにそうであるが、割と安易な大学教授もいるものだと命名した父親をアグリーは笑った。

 練習の合間にも、放送委員のリンダさんに放送部備品のマイクスタンドの貸し出しを電話で依頼したり、またコンサートの実況録音する為の機材も用意され、準備は着々と進められてゆく。写真撮影はアサヒ・ペンタックスを買ったばかりの松っチビに頼んだ。

 クマ達は基本的にはこのコンサートの目的を、レコーディングごっこの集大成、即ち自分達のライブ・アルバムを制作することと考えていた。従って他の女子の出演者は、端的に言えば客寄せの餌に過ぎず、主役はあくまで I, S & N であり、「深沢うたたね団」である。

 その主役、脇役の在り方を HIM(ヒナコ&ムー)がメチャクチャにしてしまう事を、彼等はまだ知らずにいたのだった。<続>

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 さて今回はいつもと趣向を変えビデオ教材を作ってみた。題して「Dチューニング講座」。これを見れば君も今日から C, S, N & Y になれる・・・かも


Dチューニング講座/風のかたみの日記